詩 【Christmas Song】 ――― 遥か彼方 彼(か)の星から 届くあてのない手紙を待つ ――― 久しぶりに入った事務所に、当然のことながら火の気は全くない。 これもまた久しぶりに壁の中の本体へと同化したあかねは、一度斜め上の方向に おさげを持ち上げた後、ゆっくりとおさげの先を床に向けた。それは伸びをした身体を 弛緩させているようにも見え、そのどこか人体めいた動きに弥子は微笑んだ。 手元の紙袋から取り出したのは、ややくたびれたひとつの箱。さらにその箱の中から クリスマスツリーを取り出して、紙袋に箱をしまう。 既になんの家具もない事務所の中、白い息の中に、無意識に歌が乗った。 ――― 君を想う 愛のものがたり 僕はこの宇宙(そら)に打ち明けよう ――― 離れてから自分の気持ちに気付く、なんてよく聞く話で笑ってしまう。 無意識から零れ出た歌の、別のフレーズを今度は意識的にメロディに乗せて 再び口を噤んだ。 クリスマスツリーを手にしたまま窓際まで歩く。色とりどりのイルミネーションに 彩られた街は、華やいでいて、それでいてどこか物悲しい。 そう思うのは、あの長身を思い浮かべているからだろうか。 ――― Wishing well, Kiss & tell 抱きしめたい Happy Merry Christmas without You ――― 抱きしめたい。 抱きしめてもらいたい? ……どちらでもかまわない。 弥子は持っていたクリスマスツリーをあかねの近くの床に置いた。 「明日、迎えにくるから。おやすみ、あかねちゃん」 おさげを揺らしたあかねに手を振って、弥子は事務所を出る。 ――― Wishing well, Kiss & tell 星降る夜に Happy Merry Christmas without You ――― 道に出た弥子は空を見上げた。そっと囁くように歌って、大きくひとつ伸びをする。 「さ、ケーキ買って帰るかな」 ――あんたはいないけど。 end Back Menu イメージソング&作業BGM “Merry Christmas without You” |