唱 【Christmas Song】



 外は珍しく小雪がちらついている。
 弥子は期待に満ちた眼差しを微笑ましく思いながら、大きな箱からツリーを
引っ張り出した。
 それを定位置に置き、オーナメントの入った箱を開ける。その瞬間、待ち構えて
いたように、小さな手がさっと飾りを掴んだ。くるくるとツリーの周りをまわって、
枝のひとつに飾りをつける。
 そしてまたその小さな手は弥子の傍に戻り、新たな飾りを手に取った。


  ―――  賑やかな 世界はアレグロ
          高らかに鳴らせ Bang the Tambourine!  ―――

            ―――  Bang the Tambourine  ―――


 背伸びをしながら、歌うのはおなじみのクリスマスソング。
 弥子もメロディラインを追いかけて歌う。ネウロに瓜二つの小さな頭が、自分や
ツリーのまわりを行きつ戻りつしているのが、たまらなく愛おしい。
 同じ歌を繰り返しながら、ツリーには飾りが増えていく。もらいものをしたため
クリスマスの飾りつけはアナログに戻ることとなったが、こういう時間があるのは
やはり楽しいものだ。


  ―――  あふれだす 光のトレモロ
          胸の高鳴りは Jing a-Ring a-Ding  ―――

            ―――  Jing a-Ring a-Ding  ―――


 弥子の方がメロディラインを歌えば、先程は弥子が歌っていたパートが
繰り返される。ちゃんとわかってるよ!とでも言いたげに胸を張っているのを見て、
弥子の表情は土砂崩れする。
 頭を撫でて抱きしめれば、その頭はふっと玄関の方を向いた。
 「おとーさん!」
 弥子には何も聞こえないが、魔人のそれを受け継いだらしい鋭敏な感覚は
予測を外したことがない。
 数分後、玄関の扉が開いた。




 「おとーさん、だっこ!これつけるの」
 ツリーの天辺に飾る星飾りを精一杯高く掲げる我が子を、そっとネウロは
抱えあげる。ネウロがツリーに近づくと、小さな手がツリーの先端に伸びた。
 最後の仕上げは父親とするもの、と幼いなりに決めているらしく、このツリーを
飾った最初の年から、それは変わっていない。そんなふうに、いくつもの小さな
こだわりをこの子は持っている。
 誰に似たのやら、と弥子が笑みを浮かべていると、視界に入ったネウロも似たような
表情をしていた。
 仕上げも終わり、床に下ろしてもらうやいなや、星を離した手が伸びる場所はもう
決まっている。スイッチを入れられたイルミネーションライトが、とりどりの瞬きで
ツリーを彩った。
 次の手順を催促する視線を受けて、弥子はCDデッキのスイッチを入れる。鈴の音と
音楽、そして歌がリビングに流れはじめた。


  ―――  この街に 舞い降りる雪は
          神様が 種を蒔いた幻想曲(ファンタジー)  ―――


 「おかーさん、おやつたべよ!」
 服の袖を引っ張られ、弥子はつい笑ってしまう。デッキの傍で、いやに真剣な
顔で歌っていたかと思えば、すぐにこれだ。
 だが、間食にはちょうど良い時間であったため、弥子は早速キッチンへ向かった。
 ネウロが小さく笑うのと、我が子の歌声が後ろをついてくる。
 弥子もまた唇に歌を乗せた。


  ―――  君が眺めた風景を
          まぶたの奥に ほら 映し出せば
            まだ見ぬ物語が 果てしなく続く So Long!  ―――



            end


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   イメージソング&作業BGM “Merry Christmas without You”
   あとがき(少し長くなったので別ページです)

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